インキュパス 2




………もう何回目だか分からない種付けを受けながら、
おれは奴の下にいた。


今では奴が仰向けのおれの上にのっかかり、
正上位でおれを突き上げ中出ししているところだ。
必然的におれはこいつの首筋に顔をつけることになり、
こいつはおれの首筋に鼻先を押し付けている。
ムワリと雄特有のにおいがこいつから漂ってくる。
いつもは食欲をそそられるおれだが、
今は飽き飽きしていた。
好きな毛皮と肌が擦れ合う感覚だけが救いだ。


フゥッフッ
と荒い息をさせながら、こいつはまだおれを抱いている。
おれの中はもう何回達したか分からないこいつの子種で、
どろどろ、ぐちゃぐちゃになり、
青臭い雄の体液をいまだに仕込まれていた。


うっすら夜が明け始めている。
癪なのは何度かおれの意識が途絶えていることだ。
性魔であるこのおれが一介の獣人などによって気絶させられたなど、
恥ずかしくて誰にもいえない。


とても立派なこいつのモノは確かにおれを楽しませてくれたし、
持ちきれないほどの精液をおれに与え、また今も与え続けている。
これも恥ずかしくていえないのだが、おれはもう限界である。
意識もさることながらここまで激しく何度もされるのは耐えられない。
いい加減しりがひりひりしてきたとこだ。


しかし、こいつはすっかりおれが気に入ったようで、
おれの身体を休ませてくれようとはしなかった。
恐ろしくタフな奴だ。
性魔のおれが言うのだから間違いない。


いい加減開放して欲しい。
こいつは性魔のおれをどうするつもりなのだろうか。
ここが風俗ならもうとっくに料金分の仕事は終わり、
さよならしているとこである。
完全に時間外だ。


こいつはまた、尻尾をぴんと立て、おれの中で達すると、
キスを求めてきた。
こいつは暇していたといっていたが、
よほど暇だったに違いない。


新鮮な精液が手に入ることはいいことだが、
今に限ってそんなことはどうでもよかった。
汗と体液で湿って、かさりとすら音を立てない藁の上で、
おれは再び接合されられていた。




アレから二ヶ月たった。
おれは飢えていた。
たらふく食べたのはもう過去の話だ。
動物の精気をちびちび食べても大して腹は膨れない。
いまさらおれはあの時もっと食っておけばと思う。
もう、あのときの種はおれの身体の維持に、精気は精神の維持に使い果たしてしまった。
まあ、あの時は満腹で食えなかったのだが。
そうそう、性魔が番える相手などいないのだ。


…もう、いないだろうな。
と思いつつもあの洞窟へ向かう。
腹はペコペコで今ならどんな奴でも大歓迎だった。
だが、予想に反してあのいい体躯はいた。
今では懐かしいあの雄の匂いがする。
おれは小躍りしそうになった。
まさか、待っていたわけではあるまいが。
また相手をしてくれるだろうか?
おれは微かな希望に縋り付くように近づいていった。


やたら体躯のいい獣人はおれの不安など物ともせずに、
抱き寄せてくれた。
だが、行為に移る前にこんなことを言ってきたのだ。


「……お前なんか弱ってるな。」

「んぁ?ああ、腹減ってんだよ。」

「………なぁ、毎日、種も精気もやるからおれのそばにいてくれねぇか?」

「?」


おれは少し考え込んだ。
きっとこのときのおれはどうかしてたんだ。
飢えてたし、そのせいで頭も朦朧としていた。
単純に考え、単純に答えてしまった。
つまり、いいよとな。
毎日、飯が食えるならとおもったのさ。
このときは二週間ぐらい、たっぷりご馳走になろうぐらいに思っていたのだが。
そりゃ、奴は喜んださ。
喜んでキスをしてきた。
だが、そのキスがタダのキスじゃないとすぐに気づくべきだったんだ。


まったく精気が吸えやしない。
おれがなんか変だと気づいたときにはもう遅かった。
異変はすぐに起こった。
まるでおれの中身と奴の中身が口を通して混ざり合うかのような感覚だ。
やばい。
これは契約のキスだ。


「………っ、お前…何者だ?」


一介の獣人に契約のキスなど出来るとは思えない。
第一、そんなもん知らんだろ。
悪魔同士でさえめったに契約などしないのに。


「んなの関係ないじゃないか。おれはお前の伴侶だぜ?」

「……っ!」


そう、さっきの契約のキスは明らかに伴侶の契約だ。
普通の獣人だと思って油断した。
おれは生涯最悪の契約をいましてしまったのだ。
こんな契約をする悪魔はよほどのバカだ。
まさか、おれがこんなことになるとは。
おれの腕には円の中に星が描かれた紋章が刻まれている。
忌々しいヤツの腕にも同じものがあった。


このバカはどこからこんな古めかしい魔法を引っ張り出してきたんだ?
…こんな悲劇しか生まない禁呪を。


伴侶の契約とは文字道理、伴侶になる契約呪文だ。
この契約を交わすと二人は絆という鎖でつながれ、
命まで混ざり合う。
つまり、おれが死ねば奴も死ぬし、奴が死ねばおれも死ぬ。
しかも、なんだ?側にいて欲しいとかいってたな。
つまり、おれはやつの側から離れられなくなったということだ。
やつの認識でどれほどが側なのか分からんが、
その側とやら以上にはこの契約の印が行かせてはくれまい。


「…あほか。」


おれは泣きそうだ。


「好きなんだ。」


奴はおれを見ながらいじいじとなにやら言っている。
やめてくれ。
おれは愛なんかほしくない。
こいつほんとにどうしようもないな。
おれへの感情なんか一時のものだろうに。
誰も性魔を愛したりなどはしない。
もちろん。おれも誰を愛したりはしない。


こんなたちの悪い契約をしやがって。
この契約は破棄出来ないんだぞ!!
仲が拗れたら最後、地獄しか見ない呪文だ。
だから禁呪になり、誰も行わず忘れられた超古代の魔法なのに。


おれはこいつから離れたい一心で、洞窟から飛び出そうとするが
足がもつれ転んでしまう。
もうだめだ。
おれは腹が減ってんだ。
もう動けそうにない。
奴がおれを傷物を触るように抱き上げる。
離せ。おれはお前なんか好きじゃない。


「……まぁ、まずは飯を食え。死ぬぞ?
それとも、俺と心中するか?」


お前と心中なぞするものか。
そんなことをすれば今まで必死に生きてきた自分に申し訳ないわっ。
仕方なく、おれは飯にすることにした。



あとがき

夫婦にしちゃいました。
えっと、続くのかな?

執筆 2007/09/15


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